<< テロから10年 | main | K-POP化する世界 >>

スポンサーサイト

  • 2012.06.23 Saturday
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

一定期間更新がないため広告を表示しています


all the young dudes

 
2000年前後に高校生を対象に行われた、音楽やバンドに関する調査・分析本。

調査年が丁度ヴィジュアル系全盛期だったこともあり、ヴィジュアル系受容理論(音楽からコスプレ分析まで)としての側面も併せ持つ、希有な著書である。




「どんな音楽が好きなんですか?」という質問は学校や職場などで、社交辞令の一環としてよくなされるだろう。この質問に答える場合、わたしたちは何を念頭に置いて答えるだろうか。もちろん、「好きな音楽」は「何?」という質問なのだから、単純に自分の好きな音楽について答えればよいだけである。だが、本当に自分の好きな音楽について、どれだけの人が「素直に」答えているのだろうか。

本書で明らかにされるように、わたしたちは様々な状況や場面に応じて、この質問に対する返答の仕方を変化させている。学校の教室で、ライブ会場で、コスプレ会場で、学校の帰り道で、練習スタジオで、同じ人物でも全く違う答え方を行っているのである。また、それはどのようなメンバー構成で会話を行っているかによって、答え方が変わってくる。バンドメンバー内、クラスメイト、コスプレ仲間、軽音楽部内のバンドメンバー、学校外のバンドメンバー、吹奏楽部等まったく内容が違うのである。

音楽の中身、たとえばロックやポップスといったような「ジャンル」が影響しているわけではなく、何がこのメンバーの中で「公的な」音楽なのかということに影響している。つまり、このメンバー内では、最大公約数的に「LUNA SEA」が好きなバンドだとすると、それを念頭に音楽の話をする。

ただしここにはジェンダー間に違いがある。男性同士の場合、公的な音楽を念頭に置きながらも、敢えてそれとは違う音楽の話をして、メンバー内での自分の位置取りをはっきりさせたり(アウトサイダー的ポジション)、公的な音楽をどれだけ好きか(メンバー内で一番好きだ)ということをアピールし、自分がメンバーのNO.1の座に着こうという、メンバー内での政治的闘争が日常的に行われている。

女性同士の場合、こうした目に見える闘争は行われず、常に好きな音楽からはかけ離れた公的な音楽についての会話を繰り返す。たとえ自分の好きな音楽が否定されようが、公的な音楽感をメンバー内で共有しているという振る舞いに徹することにより、水面下での闘争に長けている。もちろん自分の好きな音楽について、まったく話さないわけではない。むしろ女性は、状況や場面に応じて、男性よりも柔軟に態度を変化させることができるため、自らの好きな音楽話をできる場面を見出し、公的な部分(クラスメイトとの会話)と私的な部分(ライブハウスでの会話)を使い分けることができている。

このように、ジェンダー間での相違があるものの、わたしたちは概ね、状況や場面の公的な音楽に相当影響を受けている。わたしたちの「好きな音楽」について「素直に」答える(ことができる)場面というのは、実はかなり限定されているのだ。「ぼくらの音楽」については話せても、「ぼくの音楽」について話せる状況は少ない。

他方でインターネット・コミュニティを前提とした場面では、同じ趣味の仲間を見つけやすい。同時に、同じ趣味の仲間同士のみの付き合いになってしまい、他の趣味人と分断されている状況にあるとの見解(島宇宙化)もわかるが、実はその趣味のサークル内での闘争は常にあり、公的なものからの影響は相当程度考えられる。

また、わたしたちは四六時中同じサークル内に留まっているわけではなく、学校や職場、家族その他友達付き合いにもかなりの時間を費やしている。つまり、社会は趣味の階層やクラスタによって分断できるものではなく、様々な趣味人が場面場面で互いに混ざり合っている、ということがここで確認できるわけだ。

さて、とはいえわたしたちはネット以後の社会を生きている。趣味のサークル内、もしくはサークル同士の闘争は激化の一途をたどっている。ところが公的なものからの影響はまったく無視することができず、むしろその本質はネット以後もまったく変わっていない。好きな音楽を語る場所は増えた。しかしその分闘争も増えた。今わたしたちはどこでどんな音楽を語っているのか。10代20代の頃どこでどんな音楽について語っていたのか。すべてのバンド経験者にこの本をおすすめする。

スポンサーサイト

  • 2012.06.23 Saturday
  • -
  • 09:36
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
calendar
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2024 >>
sponsored links
ryolalaaの音楽再生
twitter
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM